青春の特権
走り高跳びで「背面跳び」を考案したのは、アメリカのディック・フォズベリーである。
1968年、メキシコオリンピックで背面跳びをしたのはフォズベリーのほかに一人もいなかった。そして、フォズベリーは金メダルを獲得した。
異端児フォズベリーの金メダル獲得を境にして、当時主流の跳び方であった「ベリーロール」は廃れていく。国際大会でベリーロールを目にすることは、なくなった。
新しいステージは異端者によってもたらされる。何の分野によらず、技術革新と呼ばれるものの多くは、異端が正統を凌駕してきた歴史だ。
年配者から見れば、若い世代はつねに腹立たしい異端者のようなものだ。自分たちが磨き上げてきた従来のやり方を否定する小癪な存在であることも多い。
「あれをするな」「これはしてはならぬ」と正統の座を守るべく、若者の前には禁止事項のバーが用意されることになる。
青春と いう字を書いて 横線の
多いことのみ なぜか気になる
俵万智
俵万智(1962~)が「青春」という文字の中に見つけた横線は象徴的である。
進入禁止のバーは、その先に未開の大地があることを告げる道しるべかもしれない。
跳び越えなくてはならない横線が目の前にあることは、辛いようでいて、じつは幸せなことでもあるのではないか。
思えば「辛い」も「幸せ」も横線一本の違いである。
![イメージ 1]()