鉄の掟 総年俸予算捻出へ
“鉄のおきて”は絶対だった。日本一に輝き選手の大幅昇給が必要な日本ハムは、総年俸の予算枠を固守するためにまたもや生え抜きスターを放出。陽岱鋼外野手(29)を手放す決断した。
陽は記者会見で、ときおり言葉を詰まらせながら、「1週間くらい悩んで自分のために家族のために決めました」とFA権行使を表明した。
日本シリーズ終了後には「もちろん残りたい気持ちはある」と残留の意向を示したが、慰留に消極的な球団側の姿勢を受け、他球団への移籍を決意。「ファイターズは若い選手中心のチーム。自分がいたらおかしい」。まだ29歳の主力にそう言わせるのは、日本球界でもこの球団だけだろう。
選手の年俸総額は25億円が上限。この鉄のおきてを守るため日本ハムは、評価から情を一切排除。活躍した選手に相応の昇給で報いる一方で、費用対効果に見合わない高給取りは容赦なく放出してきた。
今季はリーグトップの39本塁打で優勝に貢献したレアードと、クライマックスシリーズ(CS)前に出来高を含めて2年総額6億円で契約更新。意気に感じた優良助っ人は日本シリーズでもMVPの活躍を見せた。
だが日本一決定の翌日、栗山監督は周囲に「これからウチらしいことが起きるよ」と予告。その3日後、2012年MVPで今季年俸9500万円の左腕、吉川を軸とした巨人との交換トレードが発表された。
代わりに巨人から2100万円の大田を獲得。同じ右打ちの外野手で1億6000万円の陽は、放出への布石を打たれた。球団側は吉川や陽よりも低年俸で、同程度の働きができる若手が育ったと判断。ピークが過ぎた両選手を放出することで、残った選手の日本一貢献に報いる昇給分の原資を確保した格好だ。
健全経営のためドライな選手の取捨選択を貫く日本ハムの流儀。ここ10年でリーグ優勝4回は説得力がある。ファンも心得ているとはいえ、この日の会見で陽が流した涙には割り切れない思いを抱いたかもしれない。