「育てて勝つ」立ち戻れ
和歌山県中体連軟式野球専門部・大畑昌之専門委員長
県内の高校野球低迷の一因は、中学野球の弱体化だ。中学球児が、学校ごとの軟式野球部と学外の硬式野球のクラブとに二分化されている。特に軟式野球部は人数が激減し、レベルの低下が著しい。かといって、硬式クラブも活躍しているのは一握りで、県内の高校野球を担う多くの子供たちが中学時代に十分に練習ができていない。その影響は守備など技術面で顕著に表れている。
中体連の所管する県内の中学の野球部は90チームに満たない。選手不足で合同チームを組まざるを得ない学校も多く、人口減少の激しい郡部ではほとんどがそうだ。和歌山市内でも、昨秋の新チーム発足時点で、野球部のある18校のうち8校で部員が9人に満たなかった。1年生がゼロのチームも3校あるなど、練習環境は整っていない。
これに対し、少年野球の参加人数はそんなに減っておらず、中学で硬式クラブを選ぶ割合が増えているのは間違いない。確かに、全国の強豪校の指導者が品定めに来る硬式の方が、より甲子園に近い高校に進める可能性は高いだろう。でも、それは一部のトップ選手だけだ。硬式クラブは週末の練習試合を含めて練習日が週3,4日。大半の子らにとって練習時間は不足している。
野球という競技は、素質がある選手をそろえれば勝ててしまうというのも一つの現実だが、その差は練習で培う技術や戦術で埋められる。一生懸命に練習をし続けてもなかなか結果が出ない子を育てて勝たせるのが、本来の野球教育の姿だ。
県立高校でも野球のスポーツ推薦を始めれば勢力図は変わり得るが、素質のある子を集めた学校だけが強くなったからといって県内のレベルが上がったと言えるだろうか。野球部でも硬式クラブでも活躍できず、中学で野球を辞めてしまう子は多い。それは指導者の敗北だろう。
すぐに状況を変えるのは難しいが、まずは指導者の意識改革から始めるべきだ。能力だけを見て考えるのではなく、育てていくことを前提に、中学と高校の指導者がもっと指導方法などについて連携していくことしかない。育てて勝つということをもっと徹底してやっていきたい。
■人物略歴 大畑昌之
1964年生まれ。和歌山市立東中から星林、日本体育大と野球を続けて体育教諭に。和歌山市立東中時代に全国中学校野球大会に2度出場。現在の勤務先の市立紀之川中では、2014年度から野球部監督を務める。
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