昨秋、大阪桐蔭は上位打線5人のうちの4人を1年生が務めていた。センバツの静岡高戦では、スターティングメンバーのうち6人を新2年生が占めていた。
オールマイティプレーヤー・根尾昂をはじめとして、根尾以上の可能性すら感じさせる俊足強肩の外野手・藤原恭大、日本人離れした長距離砲の雰囲気漂う山田健太。挙げていったらキリがないほど、才能あふれる逸材が揃った2年生。
東海大福岡との試合後、ある中心選手がこんなことを言っていた。
「どんなに勝っても、ウチは油断できないんで……。相手に勝っても、もっともっと練習せんと、すぐ追い抜かれますから」
悔しい記憶を思い出したのか、その日、大活躍したのにも関わらず、その選手に笑顔はなかった。むしろその表情は試合中よりも厳しさを増していた。
「正直、試合で相手に勝つことって、ウチの選手たちは楽やと感じていると思います。チームのなかで、ほかの選手にレギュラーを奪われないようにすることの方が、どれだけしんどいか……」
かつて、大阪桐蔭からプロへ進んだある選手が、“内緒話”を明かしてくれたことがある。 「みんな中学時代はスーパースターで、桐蔭でもレギュラーとしてバリバリやることしか考えてない。将来、『野球でメシを食っていくんや!』って決めているヤツらばかりですから。試合で相手に勝つより、チーム内の競争に勝つことの方がきついんです。勝負は甲子園じゃなく、桐蔭のグラウンドでやる紅白戦であり、シートバッティングでしたから」
チーム内での熾烈なレギュラー争い。その凄まじいまでのエネルギーを、そのまま相手との勝負に“転化”させたような爆発力。
大阪桐蔭で野球を学んだ選手たちは、その後、進学した大学でも、就職した社会人でも、そしてプロの世界でも、その多くがチームの中枢として機能し、素晴らしい活躍を遂げている。
もともと、飛び抜けた素晴らしい才能を持つ野球少年たちが、大人顔負けの生存競争のなかで心身の強靭さと柔軟な思考回路を磨きながら、険しいピラミッドを這い上がっていく。
「野球のうまい少年って、どんな顔をしているのか……」
そんな先入観で大阪桐蔭の選手たちを見ると、みんな童顔で、どこにでもいる、あどけなさの残る普通の少年たちだ。
甲子園という大舞台での勝利にも、彼らに弾けるような無邪気な笑顔はない。試合が終われば、レギュラー争いというもうひとつの戦いが始まる。その緊張感が大阪桐蔭の強さを支えている。
西谷監督が優れているのは、中学生の野球選手の中で、高校で伸びそうな選手を的確にスカウトするところだ。「はずれ」が少ない。特に最高傑作が今の高2世代だ。日本中から好素材を集めている。それが、高3になる前の高2の春のセンバツですでに開花した。