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Channel: 悠々美術館通信
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「二人の武蔵」

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二人の武蔵
 
五味康祐の剣豪小説「二人の武蔵」のなかに、若き日の武蔵が太刀を腰に差して、何度も何度も頭から池に飛び込む修業する場面があった。
顔から落ちる瞬間、鏡のような水面に自分の影が映る。武蔵は刀を抜いて、自分の影を斬ろうとするのだが、当然ながら影もまた、実物の武蔵を斬ろうと刀を抜く。
影と実物、二つの刀は常に水面上で交わり、どちらが遅い、どちらが早いということはあり得ない。それでも武蔵は影が斬りかかる前に影を斬るべく、飛び込みをくり返すのである。
物理の法則に照らせば、無駄な行為であり、愚かな挑戦といえる。たとえ、何回やっても目標が達成されることはない。
水面に写る自分の影を一瞬早く斬れる日がいつか来ると信じ修業を重ねた武蔵は、目的は叶えられなくても、この修業を通して何かしら極意を会得したかもしれない。
 
最初から無理と決めつけて何もやらない人よりも、無駄だと分かっていても挑戦を続ける人のほうが、刻み深い人生観を養うことになるはずだ。
 
世の中で修業と名のつくものはみな、やってみて、初めて分かることばかりである。

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