1858年、日米修好通商条約によって長崎以外での本格的な貿易がスタートした。
開国直後の日本は、意外なことに生糸と茶の輸出が好調で、輸入額よりも輸出額が上回り貿易黒字であった。
だが、繭から生糸をつくる製糸工程は人力や前近代的な器具によるところが大きく、生産量が少ないフランスやイタリアよりも品質の面で劣ると評されていた。
このため、ヨーロッパに負けない近代的な製糸工場を稼動させ、製品の量・質ともに高めていくことが殖産興業推進のためには欠かせないと考えられるようになった。
明治政府は、お雇い外国人技師ポール・ブリューナの指導で、フランスから機械や蒸気機関等を輸入し、養蚕業の盛んな富岡に日本初の製糸工場を設置した。
こうして、富岡製糸場は、1872年に官営模範工場の一つとして操業を開始した。
ただし、建設に尽力した渋沢栄一は、後年自己批判も込めて「富岡製糸場は、官による経営で採算性を無視できたから成功した側面もあり、日本の製糸の近代化に真に貢献したのは、富岡に刺激されて近代化を志した民間の人々である」と書き記している。
当時は世界でも有数の規模であり、数百人の女工が日本全国から集められた。
1893年、官営工業の払い下げ令により、富岡製糸場は三井家へ払い下げられた。富岡製糸場は、1987年まで約115年間操業を続けた。
約1万5千坪の敷地内に開設当時の繭倉庫、繰糸場、事務所、外人宿舎など煉瓦建造物がそのままの形で残っていて、世界遺産にも登録されている。