東京大会決勝で、早稲田実業は日大三に9回サヨナラ勝ちし優勝。
しかし、主砲・清宮は、日大三の左腕エース・櫻井周斗の前に5打席連続三振に倒れた。
試合は早実の1年生スラッガー・野村大樹のサヨナラ本塁打が飛び出し、早実が8対6とサヨナラ勝ち。来春のセンバツ出場をほぼ確実なものにした。
一方、清宮から5三振を奪った櫻井は、「いくら三振を取っても、勝てなければしょうがないです。自分もチームも甘さがありました。自分はキャッチャーのサイン通り、ミットを目がけて投げただけです」
櫻井は最速144キロをマークする本格派左腕。そして、この日に投げた球種はストレートとスライダーだけだった。持ち球にはチェンジアップもあるが、精度に不安があったため早実戦では1球も使わなかったという。
捕手の津原瑠斗(りゅうと)は、「早実が関東一に勝ったあたりから、対策をずっと考えていた」と打ち明ける。特にマークしていたのは、3番・清宮、4番・野村のクリーンアップだった。そして清宮に対しては、こんな攻略法を固める。
「第1打席の初球は、絶対にインコースの真っすぐでいこう」
勝負にいく球ではなく、投げるのはボールゾーンでいい。そのときの清宮の反応を見て、勝負球を外角のストレートにするか、スライダーにするか判断するつもりだったという。その初球のストレートに対して、清宮はこんな反応を示した。
「清宮の体が、若干引き気味になったんです。この反応を見て、『全部スライダーでいこう』と思いました」(津原)
清宮が喫した5三振、結果球はすべてスライダーだった。1打席目だけでなく、2打席目、3打席目にもインコースのストレートを突いて「もうひとつ引いた」という感触を得た津原は、勝負球としてスライダーを選択する。清宮のバットはことごとく空を切り、3打席目はボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるスライダーに反応できず、見逃し三振に倒れた。
さらに日大三バッテリーに自信を持たせたのは、清宮の「空振り」にある。ストレートに対してはフルスイングができていた清宮だが、スライダーに対しては腰が砕け、右腕一本で当てにいくような空振りが続いた。このスイングを見て、津原は「スライダーなら長打はない」と積極的にサインが出せるようになったという。
「思い切り振られたときは怖かったのですが、片手で空振りをしている間は怖くありませんでした」(津原)
そして、津原の脳裏にはもうひとつのイメージがあった。それは1年前の夏のこと。津原が1年時に日大三は早実と西東京大会準決勝で戦っており、日大三の2番手右腕・小谷野楽夕(がくゆう)が清宮から2打席連続三振を奪っていた。
「小谷野さんのスプリットに三振しているイメージが強くありました。落ちる系の球種があればいけるなと」(津原)
櫻井のスライダーは斜めに落ちるような軌道を描く。この日、5打席連続三振を喫した清宮だが、こと日大三戦に限れば1年前の夏から通算して7打席連続三振に倒れていることになる。
そして、やはり津原も清宮に対して「あまり状態がよくないのかな」という印象を持っていた。
「ストライクからボールになるスライダーを空振りするならまだわかるんですけど、ボールからボールになるスライダーまで振っていたので、『見えていないのかな?』と思いました」
しかし日大三バッテリーにとって誤算だったのは、清宮の後を打つ野村など、想像以上に早実打線に破壊力があったことだ。津原が明かす。
「1番から9番まで気が抜けないというのはわかっていましたが、それでも清宮くんへの意識はどうしても強くありました。それで試合に入っても、上位打線より下位打線によく打たれている印象があったので、櫻井には『6~9番にしっかり投げよう』と言っていました。それでも早実打線はしつこく振ってきて、後半は櫻井にも疲れが出て、甘いボールが増えてきました。最後に野村くんにサヨナラホームランを打たれたボールは、抜けたスライダーがど真ん中に入ってしまいました」
櫻井は早実打線から14三振を奪ったが、10安打を浴びた。そのうち5安打は6~9番に打たれたものだった。