NYの着用義務で論争 伝統の「握り」守る店も
米ニューヨーク市ですし職人がすしを握る際、ゴムまたはプラスチック製の手袋着用を義務付ける市当局の衛生基準に反対の声を上げる店が現れ始めた。日本料理の「伝統」を壊すだけでなく、衛生効果がどれだけ上がるか疑問とされるためだ。手袋着用の是非は、すし愛好者も巻き込み大きな論争となっている。
マンハッタンで10月下旬、すしを素手で握ったとして、デイビッド・ブハダナさん(29)が料理長を務めるすし店「スシ・ドージョー(道場)」が一時的に閉店を命じられた。地元紙でも大きく取り上げられるなど、ニューヨーク市民の間で人気の店で、ブハダナさんは最近、伝統的な手法にのっとった握り方を復活させようと、衛生基準廃止の署名運動を開始した。
ニューヨーク「グランドセントラル駅」近くの人気すし店「スシ・ヤスダ」の幹部、スコット・ローゼンバーグさんも最近、地元紙デーリー・ニューズに、「手袋を脱ぎ捨てろ。すしのために戦え」と題する文章を投稿した。ローゼンバーグさんは、(1)すし職人は手先で鮮度を感知するが、ゴム手袋はその感覚を鈍らせる(2)すし職人は何度も手を洗うほか、握る際に手につける酢水は殺菌効果もある(3)世界で偉大な食の一つであるすしの文化を脅かしかねない-などと主張している。
市内のあるすし店では市の衛生基準が日本のすし文化の実態に即さないとして「衛生当局が検査に訪れるときだけ手袋をし、帰った後は一斉に手袋をはずす」(同店幹部)という。誇りあるすし職人として、当局の方針に敢然と立ち向かう勇気ある姿勢に拍手を送る人々は少なくない。
こうした店の大半は、ニューヨーク市と同様の衛生基準を撤回するに至ったカリフォルニア州知事の“英断”を高く評価している。
ある邦人男性は「市内のベーカリーでパンを買おうとしたとき、ゴム手袋をした店員が掃除用のホウキを触り、そのままパンを触ったので衝撃を受けた。ゴム手袋着用は安全な感覚を鈍らせる」と語り、ローゼンバーグさんの主張に理解を示す。