急造エースは清宮を甲子園に連れて行けるか
2カ月前まで捕手「度胸とセンスのかたまり」
準決勝
早稲田実 4-1 八王子
(早)雪山 (八)米原、村田
準々決勝
早稲田実 5-1 日本学園
(早)雪山 (日)小橋川、中島
“怪物スラッガー最後の夏”が佳境を迎えようとしている。高校通算107本塁打の清宮幸太郎内野手を擁する早実は、西東京大会準々決勝で日本学園を5-1で撃破。準決勝も昨年度敗れた八王子にリベンジし決勝進出を決めた。
エースの雪山幹太投手(2年)が2試合ともに1失点完投。わずか2カ月前に投手転向を言い渡されたばかりの背番号「1」は、全国屈指の破壊力を誇る打線とは対照的に“弱体”といわれてきた投手陣を一変させ、チームの救世主になろうとしている。
「ここまで来たら甲子園に行くしかない。正直、疲れはありますが、後ろにリリーフもいるし、ここから先は投げきれるところまで投げて後ろに託そうと思います」
身長170cm、73kgと決して大きくない体で、上手投げから打たせて取る投球。八王子を1失点に押さえ込んだ2年生右腕は、2カ月前までは捕手だった。
早実、和泉実監督(56)は「彼と付き合う中で、状況に応じた判断力と野球センスに素晴らしいものを感じていた。」と正捕手に抜擢。
しかし昨冬に左手親指を痛め、春になってもキャッチングに不安が残った。
「雪山を守備の不安から解放してあげたい」と同監督は5月の関東大会で今度は外野へコンバート。背番号は「2」から「8」に変わった。同時に、三塁手だった主砲・野村大樹(2年)の強肩を見込んで空いた捕手に配転した。
中学時代に神戸中央シニアに所属した雪山も、大阪福島シニア出身の野村も関西出身である。
早実は打撃のチーム。今年4月の春季東京都大会決勝(神宮)では、日大三に18-17という野球とは思えないスコアで打ち勝った。センバツ、都大会、関東大会と今春の公式戦12試合で喫した失点は合計71に上り、勝つには1試合平均6点近くの失点を取り返さなくてはならない計算。投手陣は明白なウイークポイントだった。
急務だった投手陣の立て直し。そこで同監督が関東大会後に白羽の矢を立てたのは「度胸と野球センスのかたまりのような子」と見込んでいた雪山だった。
雪山は抜擢に応え沖縄、愛知、香川と各地の招待試合で強豪校と対戦する中で制球力の良さと勝負度胸を発揮。背番号「1」を背負うことが発表された。
今大会はこれまで5試合すべてに先発し、4完投。計40イニングをほぼ完璧に抑えこんでいる。「驚くようなスピードもないし、どんどん空振りが取れるわけでもないが、場面に応じた状況判断の的確さには感心します。野球をよく知っている。野村との同級生バッテリーも息が合ってきた。2人で成長してくれている」と監督は目を細める。
主将の清宮も「この大会に入って、打ち勝つだけでなく、いろんな形で勝ってきている。新しいウチのスタイルということ」とうなずいた。
2年生の“急造バッテリー”が、「20年に1人の逸材」ともいわれる清宮を甲子園へ連れて行くには、あと1勝だ。